テキストサイズ

浮遊空母~ぼくの冷たい翼~

第23章 ベトナム編〜サァシャの罪〜

(2)


サァシャの旦那グエンは真面目な仕事人間だったが、残業続きで帰宅は遅かった

二人は当時同じ連邦系の軍事工場の下請け会社で出会い、結婚した

当時も今も、ベトナムの人材は優秀で安い賃金で高品質なモノ作りが評価され世界中から生産依頼が集中していた


先進国は宇宙世紀以降もあいかわらず権力は持ち続けているものの、完全に国家として疲弊しきっていた


また一時期勢力を伸ばしていた中国は求心力を失わされ、徐々に解体されつつあった


中国の南に隣接するベトナムは“小中国”と呼ばれ、弱体化した中国の代替生産地として盛り上がりを見せていた


グエンの企業だけでなく、サァシャ自身が勤める職場も年中忙しくまわっていた


ふたりとも自宅と職場の往復の毎日だった


疲れきった日々の生活で、この昔の思春期の頃を思い出させる路地はちょっとした心の癒やしとなっていた



幼少の頃から幼なじみだった男の子、クー

ともに成長していった思い出の場所


当たり前のように交際が始まったころ、ふたりでよく歩いていたここの路地



20年前の記憶は美化されているかもしれないが


あのときは毎日が輝いていた


クーはその後ベトナム人民軍への兵役義務として徴兵された


そして、そのまま帰ってこなかった


そして、自分は疲れ切った中年女性となってしまった


ストーリーメニュー

TOPTOPへ