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浮遊空母~ぼくの冷たい翼~

第25章 〜哀しみのニック〜

(13)

ターヤはハンブルグに戻らずハノーバーの工場に降り立ち、被害現場を確認した


ロールアウトしたばかりの納品待ちだったであろう“フリーゲン”の機体がことごとく破壊されてしまっていた…


救急車や消防車が何度も行き交う



焦げ臭いにおい


あたりに充満するオイルのにおい


“もう、ここはダメだな…”


ターヤはたそがれながら思った



遠くのガレキで同僚が呼んでいる


どうやら最後に撃墜した敵の機体がガレキの向こうに墜落していたらしい


駆け寄ってみると既に人だかりが出来ていた


雷撃を自分で浴びて機体は黒焦げだ


軍の兵隊や、工場の男たちはコックピットを強引にこじ開けようとしている



「……公開処刑か、このままリンチだな」


同僚はボソリとつぶやく



ターヤは黙っていた


“もし自分が敵地で墜落したら…

リンチか、レイプか……

裁判なんてしてくれないんだろうな…”と思っていた



観衆は増えていき、溶接カッターまで持ち出してコックピットを開けていた


男たちの怒号が飛び交う


「やっちまえッ!」
「仇をとってやれッ!」
「なぶり殺しだッ!」


ようやく開けられたコックピットに男たちがなだれ込む


だが



シーンと静まり返った



ターヤは男たちを押し退け、機体に上がる


そこで目にしたのは

手足がグチャグチャになってしまっていた幼い少女の姿だった…



すでに眼は見開かれており、息もしていない



やや浅黒い、中近東の血が少し混じったような


どこにでも居そうな10歳すぎくらいの女の子が、無惨な姿で座っていた…



男たちも言葉が出ない


ターヤも言葉が出なかった


“こんな小さな女の子が…”



戦争に巻き込んだのはオトナだ

誰もが自分の子供や兄弟たちのことを振り返り、この少女の生い立ちを悲しんだ



そして


巻き込んでしまったオトナの一員として


深く


深く、猛省するのだった…



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