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浮遊空母~ぼくの冷たい翼~

第29章 インド編③アニーカ・カリード 〜闇と孤独〜

(7)

ソニアは黙ってアニーカ・カリードの話しを聞いていた


食堂内、近くのテーブルに座っているクルーも皆静かにアニーカ・カリードの話しを聞いている



「…反発しにくいもう一つの理由は、それらを表沙汰にされたくない事情があります

 それは“家長制度”が根強いためです


家族の中でも家長となる男性を立て、女は後ろに引いていることが一般的です


家長の男性が仕事から帰宅するまで、女は家から一歩も出ません


買い物も男性が行うか、男性と共に外出します


女は外部の社会から遮断されて暮らします


例えばこのような事件が有りました


ある日、年頃の娘が家の近くで男友達と談笑している光景を仕事帰りの父親が見かけました


父親は帰宅した娘の頭部を切り落とし、その頭部をぶら下げながら街の中を徒歩で歩き、自ら警察に出頭したのです


街の中で娘の頭部を晒すことにより

父親は自分の家長としての面目を保つのです…




また“ダリット”の結婚式に突如上位カースト数人の男たちが会場に乱入して

新郎の目の前で花嫁をレイプする事件もあります


花嫁は暴力を受けたまま路上に放置され、数日後に亡くなりました




バスに乗れば男数人から車内でレイプが始まり、事が終わったら走るバスから放り出された事件もありました


私たちの日常は暴力、レイプ、死がすぐ近くに感じるのです


私も姉妹の死、自分の被害、子供との別れの末

〈アブドゥラ解放軍〉に所属しています…」




アニーカ・カリードだけでなく、若い女性パイロットのノマとファラも似たような境遇なのだろう


ソニアは何と声をかけたら良いのか

言葉がなかなか選べなかった


「強く生きなさいアニーカ・カリード、

アナタのおかげで助かった命もここにあるのよ

アナタの人生に意味はあるのだから」


アニーカ・カリードはソニアの言葉に黙って頷いた


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