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浮遊空母~ぼくの冷たい翼~

第29章 インド編③アニーカ・カリード 〜闇と孤独〜

(18)

シャワールームでは無意識に時間が長くなる


それは身体を洗っている時間が長いから

 

洗っても洗っても


妙に身体が汚れているような気がする


何年も前だというのに、蹂躪された記憶もだいぶ薄まってきたと思うけれど

ふと瞬間に身体の中から黒い記憶が蘇ってくるのだ


鮮明だった黒い記憶も、だいぶカタチがボヤケてきたように思う


身体の中に侵入してくる男の異物の感覚や、身体に浴びせられる体液の粘り


穴から垂れ流れていく頃には自分の脱力感までもが蘇る


セックスにいいイメージはまったくない


思春期の頃にむりやり結婚させられた歳上の夫は強引なセックスだったし、


何度も身体を求めてきた義父もモノのように扱ってきた


家を追い出されてから生きていくために小物を作って売ったりしていたが、ときには雨をしのぐために身体を差し出したこともある


そのときも男の性欲の捌け口になっていただけだ


女性はみな奉仕するために生まれてきた、と思っている


夫の家族の暮らしを支えていたのは別に自分だけではない

ましてや売られたような結婚も、
レイプも、追い出されて孤独に生きる女性も

あの混沌とした世界では当たり前の事だ


まだ自分はマシなほうなのだ
こうやって仕事を与えられ、ゆっくり眠る場所もあり、身体を清める場所も使える……



それでも、



何度も身体を洗ってしまうのだ


決して落ちない汚れを落とそうと……



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