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浮遊空母~ぼくの冷たい翼~

第6章 ~演習~

その頃…


あたりが暗くなった時間

ナオトは激しい嘔吐を繰り返していた

頭は割れるように痛み、全身は引きちぎられているような感覚が走っている


後ろ手を縛られ、正座させられ、あたりは吐瀉した汚物にまみれていた


ナオトは捕虜になっていた


ナオトを見下ろしているのは少し白髪が入った女性

身なりはラフなアロハシャツを着ているが、鋭い眼光は現地人ではなく軍属だとすぐにわかる


キンバリー中尉はとんでもない拾い物をしてしまい困惑していた

いや、迷惑だった


連邦軍のなかでも現地の派閥、企業連合側についてしまったため、したくもない戦渦に巻き込まれてきた

現地の男性と家庭を持ったが、彼もまた正規軍側の現地スパイだった

方向性が異なるとはいえ、なぜ連邦同士で争うのか…

政策も経済援助も納入談合もキンバリーにはまるで興味はなかった


最初は脳科学専門の軍医として入隊したはずなのに、わたしは何をやっているんだ…ッ!

今更どちらの軍にも関わりたくない

夫とも別れ、息子も宇宙に飛び、キンバリーは現地基地の中間管理職として穏便な生活が出来ればよかった…


この遭難者と出会わなければ…!


海洋基地に連絡が入ったのは18時過ぎ

パトロール中の哨戒機は飛行中、領内に滑空するフリューゲルを発見した

呼びかけには応じず自動制御のまま滑空している

哨戒機は近隣の部隊からモビルスーツを出し、これを櫓獲した

キンバリーに報告が届いたのが19時過ぎ

“クラング”によく似たフリューゲル機を島の格納庫に収納した

キンバリーが格納庫に到着したのは20時前

しかしそこは火の海となっていた

格納庫といっても小さな地方部隊の出張所のような端部隊が使う格納庫だ

実はコクピットを剥き出しにしようとモビルスーツの指が機体に触ったとき、<ブリッツ>の先端に触れてしまったのだった

放電砲を知らない一般部隊には何の予備知識もなかったのだろう

暴走した放電砲は格納庫を一瞬で燃やしてしまったのだった…

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