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浮遊空母~ぼくの冷たい翼~

第6章 ~演習~

キンバリー中尉は捕虜の扱いに困っていた

自分の息子と変わらぬぐらいの年頃のパイロット

スーツの認識番号からは彼は何ヶ月も前に全滅した南太平洋基地の所属になっている

さらに搭乗機はガード基地の量産機“クラング”をベースに、異常なほど高性能なパーツが付けられている

辺境な基地の防衛部隊にこんな装備なんて聞いたことがない…!

そしてこのツインアイ…!

“これは…まるで…!”


キンバリー中尉は入隊直後、南米アマゾン川流域の連邦軍地下基地<ジャブロー>に配属されていた

軍医として勤務していたときの基地の印象は、基地というより“工場”であった

当時、数種類のモビルスーツの試作機をベースに<量産機>の生産が行われていたからだ

地下基地ではモビルスーツの生産以外にも様々な試験場となっており、若いキンバリーもそういった特殊な作業の開発チームとして参加していた


その後、大きな戦いが数回あってキンバリーはジャブローを離れた

あのときの広報誌に掲載された試作機に似ている…


いやいや…、あれはモビルスーツ

これはフリューゲル…、どちらかと言えば航空機だ…

もちろんフリューゲルがモビルスーツの汎用性と航空機の両面を生かした機動兵器だということはわかっている

大型基地に低コストのフリューゲルが配備されているが、キンバリーら僻地の島々の小さな基地には長い滑走路が無く、おそらく配備されることは無いだろう

実際、キンバリーはこの変てこな“クラング”が、初めて見たフリューゲルだった


“まるでキメラだね…”

半身半獣の姿はまさに“合成機体”だ

モビルスーツのような人型の上半身、
全体のフォルムは小型の飛行機だ



しかし…、どぅしたものか…


“クラング”はブラックアウト

パイロットは重傷

さらに正規の所属でもなさそうだ…


“退役直前に…面倒なものをしょいこんじまったね…”

医師出身とあって、もう軍隊には関わりたくなかった…

夫も、息子も戦争を選んでしまった…
キンバリーは生活のために軍属に関わっているが、既にこのギスギスした日常に終止符を打ちたかった

40歳を過ぎての再スタートを考えていた

蓄えはじゅうぶんにある…

自分が腐っていきそうだった…

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