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浮遊空母~ぼくの冷たい翼~

第34章 25バンチの亡霊

(5)

スルスルと上から布ずれの音がする


「何です?」

「何でも無い、上を見るな」


どうやらシモンズは制服を脱いだようだ
シャツのボタンを外す程度ではツラいのだろう
ナオトも汗だくだった


「ふぅ、全然違うな…、キミも脱いだほうがいいぞ、かなりラクになった」


「……そうですね」

ナオトもたまらずシャツを脱いでノースリーブの肌着姿になる


脱いだ制服で顔をぬぐう

汗が目に入って痛いほど沁みるのだ


シモンズは少し呼吸が荒くなってきて無言になる


そしてナオトに声をかける


「ちょっと……、たまらんな

悪いけどトイレをするぞ!
耳をふさいでおけ」


「降りますか?」


「いや、仕方ない」


シモンズは座席シートの座面を起こし排尿用のノズルをあてがう

宇宙空間の無重力状態でも使用できる簡易バキュームだ

ブォォォ、とバキューム音がするものの

ナオトのすぐ頭の上に位置するため排尿音を掻き消すほどのノイズでは無かった


女性だけに恥をかかせるわけにもいかず、ナオトも続いてトイレを済ませた


一瞬でも下半身が空気にさらされると、汗ばんでいた不快感が少しでも楽になった


「川があったらモビルスーツごと飛び込んでやりたいがな」

「そんな程度でコックピットまで浸水しちゃったら気密性の欠陥じゃないですか!
 なんなら溺死しますよ」


「例えを言っただけだろ?真に受けるなよ」

「まだコロニーの中だからマシですけどね、
 地球ではこんな森の中だったら熱中症ですね」


「熱中症くらい宇宙でもなるぞ、あと水分補給せんと脱水症状まっしぐらだな……
 休憩を終わらせて移動するか
 〈食料〉か〈エネルギーパック〉、アイテム確保か、近くに森を維持するための水源があるハズだ
 湖か、川か、潅水チューブでもあればな」


ジム・トレーナー・セカンドは頭上の枝を落としながら立ち上がった……



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