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浮遊空母~ぼくの冷たい翼~

第36章 アナハイム・エレクトロニクス〜月の死の商社〜

(3)

アナハイム社の指定された工房に出向いたものの、手続きやら許可申請やらでずいぶん待たされた


ようやく担当と面会出来たのは数時間後だ


担当者はメガネをかけた事務方の男だったが2人の若い訪問者を明らかに警戒していた


「あなたがシンシアさん? 確かに引き継ぎの連絡は来ていますが……あなたは民間人ですか?」


「ええ、今はね 結婚して退役しました、今日は元上司の要請で積荷を載せたシャトルの運搬係りを仰せつかりました
 こちらはナオト・サカモト、今回のシャトルのパイロットです」


ナオトは一瞬「え?」と眼を開いた


シンシアは説明を続ける

「ナオトも戦闘時の負傷で部隊を退役しています、ちなみに私の夫です
 何なら照合されますか?」


シンシアは身分証を差し出すが男は受け取らなかった


「いえ、受付の署名から照合は済ませてあります、空軍の方が宇宙に出られるのは珍しいもので…」


「夫はアジア系なので余計に若く見られます、もともとふたりとも空軍のパイロットだったものですから、この任を拝命しました」


「照合は終わっているのでこちらは構いません、ここは正規軍以外のお客様も多いので…
 あなた方のデータには空軍在籍の記録はあったのですが具体的な配属部署は閲覧出来ませんでしたが…」


「ええ、そうでしょうね! 連邦空軍といっても民間の〈ガーディアン社〉とのプロジェクト部隊でしたのでアクセスには高い階級の者だけに限られている筈です」


シンシアは嫌味を言ってやった

この小娘は長時間待たされて苛立ちを隠そうともしなかったのだ


ナオトは丁寧な言葉を使いつつ喧嘩越しの嫁の態度にオロオロするばかりだ


「……失礼しました、それでは受領のご案内をさせていただきます、どうぞこちらへ」


3人は一度エントランスを出てエアカーに乗り込み、少し離れた工房へ向かった…


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