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浮遊空母~ぼくの冷たい翼~

第36章 アナハイム・エレクトロニクス〜月の死の商社〜

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街を歩いて数刻、特に買い物があるわけでもなく観光地めぐりを楽しんだナオトだったが、

帰りのエアタクシーを捕まえようとしたときに突然背中を叩かれた


「よ、旦那さん!ひとり?」


振り返ると私服姿のダイアナ・ギルスベルゲンだった…


パイロットスーツ姿しか見たことが無かったので、こうして見ると普通の女の子だ

少し赤毛のショートカット

ショッピング帰りの大学生くらいに見える


「ちょうど帰るところだったんです、ダイアナさんはまだ仕事してたんですね」


「そう、明日で引き継ぎ完了でしょう? 書類揃えて、データも全部メモリーに移しておいて明日慌てないように準備しておいたの!
 奥さんはどこ? 良かったらこの後一緒にご飯行かない?」


シンシアは疲れて卒倒したことを伝えてナオトはさっさと帰宅しようと思っていたのだが、エアタクシーがちょうど目の前で停止してダイアナに押されて乗り込む羽目になってしまった…


“めんどくさいことになったな…”


ナオトは流れていく外のネオンを眺めながらため息をついた…



連れられた場所は若い女の子には似つかわしくない大衆食堂のような小さなお店だった


老夫婦がふたりで営む小料理屋


「これ、本物の魚?」

「そうよ、養殖だけどね!月には魚の養殖と野菜の栽培のプラントが有るのよ、日本人は魚を食べるんでしょう?ここは技術者が多いから日本人街が近くにあるのよ」


強引に連れて来られて少し辟易していたナオトだったが、なるほどダイアナは彼女なりに気を遣ってもてなしてくれているわけか…


「それにしても……キアラが南国の小島で暮らしているなんて意外だったわーー!
 サイド6に居た頃は走り回って大変だったのよ!」


「そのへんはあまり変わってないかもしれませんよ、とても人懐っこい女の子でしたから」


「アレクには会ったことある?私は入れ違いで会ってないのよね…、みんなからは伝説的な人ってイメージだわ」


「いえ、インドネシアの病院ではキアラとドクターだけでした、それもすぐに非常事態警報が鳴り出したので…」


ふたりは食事をとりながらさほど重要でも無い内容の会話を楽しんだ…





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