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浮遊空母~ぼくの冷たい翼~

第36章 アナハイム・エレクトロニクス〜月の死の商社〜

(13)

翌朝

新型機受領、そして月を発つ日


ふわぁっ、とナオトは大きなあくびをした


「…おや、寝不足ですか旦那さん、新妻を残して夜中まで出歩いてた旦那さん」


「……だからゴメンって!」


グラナダの宇宙港には多くの人たちが出入りし、働く者や、観光客、そして軍人らしき者も見かける


屈強な男たちだが見慣れぬ軍服


それも統一感が無く、様々なグループ、団体があるみたいに見える


宇宙港の格納庫エリアに整備が終わり静かにたたずんでいるシャトル
 アナハイム社で出逢った眼鏡の男がビジネスバッグを下げて待ち構えていた


最終の書類の受け渡し、データメモリーの引き継ぎ、ふたりは何枚もの書類にサインしていく


シャトルに入り、すぐに後部の荷台のほうへまわる


新型機〈メテオシュタイン〉がコンパクトに収められている
 手脚は内側に収納されている
 壁にはいくつかのライフルがマウントされ、充填ランプがMAXを示して点滅していた


ふたりは新型機の複座コックピットに乗り込み、計器の確認をしていく


複座シートはジム・トレーナー・セカンドのように上下では無く、真横に設置されていてお互いの顔を確認できた


シンシアが球体の操作スティックを握り、指先だけでパチパチと動かしていくと360度全周囲モニターが起動する

せまい格納庫の壁が映し出され、正面の搭乗口に、見慣れた若い女性が現れた

 テストパイロット、ダイアナ・ギルスベルゲン

今日も仕事着のパイロットスーツ姿だ

搭乗口からコックピットハッチへまわり、直接顔だけをのぞかせた


「来たな、後輩」

「いよいよですな、先輩」

「ん? なんか酒臭いぞッ!」

「え?まだ残ってる?」


ふたりがやりとりしているあいだ、ナオトは気まずくてそっぽを向いてコントロールパネルの調整に集中していた
 ナオトはゆうべ街でダイアナと出逢ったことをシンシアには伝えてなかった


「…まだ当分かかりそうね……、私は次の仕事が待ってるからここで離れるわ、良い旅を!」


ようやくナオトが「お世話になりました、ありがとう」と告げるとダイアナは手を振って去って行った


「忙しそうだな…」


シンシアはポツリとつぶやき、再び操作の確認に戻ったのだった…

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