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浮遊空母~ぼくの冷たい翼~

第38章 サイコ・クラングの逆襲

〈19〉

覆いかぶさったクラング・アースラのコックピットハッチが開き、中から息も絶え絶えのアースラがボトリと落ちる


アースラの美しい豊満な身体は焼けただれ、過去の傷跡がさらに酷くなりパイロットスーツも全身引きちぎれていた



サイコ・クラングの首元からハッチ強制開放の操作をすると大きな頭部が背面に移動し、中へ通ずるハッチが開いた


よろめきながらアースラが潜り込む



「クー!クー!私だよ」


ハッチが開いてもコックピットそのものはかなり奥の方に配置されており外部からの攻撃から搭乗者を守るようになっている


奥の方まで暗がりの洞窟のようだ


起動している筈なのに、不思議と内部は真っ暗なのだ



暗闇の中、座り込んだ人影…



パイロットシートに座り込んだ少年、クー


そしてその膝の上には廃人となった女、サァシャ



「ああ……、クー!やっぱり戻ってきてくれたんだね……、その女は……、死んだのかい?

 いいのよ、いいのよ…

 クーが女を求めている事はわかっている、でもこれからは大丈夫、私がその女の代わりを務めるから!」


司令官アースラは、ただの女〈アースラ・ダンザグ〉になっていた…


それがクー本人を求めているのか、それともエターナル計画の副作用で強精となってしまった者へ〈虜〉となってしまっているのか…


クーは閉じていた瞳を開けて、目の前の女アースラを見つめている



「…サァシャの代わりは…居ない

サァシャはすでに心が死んでしまった…

肉体も…もうじきに絶えてしまうだろう

今さら誰かを憎むことも恨むことも無い


虚しさだけだ


恨むとしたら何もしてやれ無かった俺自身を恨んでいる


お前たちに利用されなければサァシャはこんな目に遭わずに済んだだろう

俺がエターナル計画に参加しなければこんな事にならなかっただろう


俺は自分に絶望し、そして周りに対しても絶望しか感じない


人類に絶望する…


もう……この世界に想いを馳せる事は何も無い



可哀想なアースラ


お前は誰からも求められず、何も得られない


お前の醜さは外見では無い


何もかも執拗に執着してしまうお前の心自身が醜いのだ


お前への恨みは今となってはもうどうでもいい


もう、何もかも…、どうでもいいんだ…」


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