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浮遊空母~ぼくの冷たい翼~

第44章 終幕〜永遠のキンバリー

(3)

ただトランキュリティ軍に参加していた頃にはすでに研究への欲望は薄まり、惰性で時間を過ごしているようなものだ


大きな予算もなく、計画は頭打ちで、あざ笑っていた周りを見返す気力もなくなっていた


アレクはそんなキンバリーに容赦なく責め立てていく


疲弊していく自分の肉体


若いアレクに求められていくたびに、自分が蔑まれていく


キンバリーのアイデンティティはうつろなものになっていった…


 アレクの戦死報告を聞いたとき、どこかホッとした感覚があった


ここでの暮らしも終わる


すでに空虚な暮らしであったが、ようやく何もかもから解放されたような感覚


キンバリーは組織から離れ、生活を宇宙に移そうとしていた

別に新天地を求めていたわけではない


今更あらたな研究をする気もない


ただ、誰も知らないところへ行きたかった


キンバリーはターミナル構内を歩き、月へ向かおうと搭乗口へ向かう


チケットを購入して、時間まで待合室の椅子に深く座る


周りは混雑しており、同じように地球から逃げ出す者が多いのだろう


隣席のの老人が立ち上がると入れ替わるように小さな子供が座ってきた


もう片方の席の男性が立ち去ると、また小さな子供が座ってきた


“姉妹かしら、家族? わたし席を替わったほうがいいかしら?”


隣の女の子をチラリと見てみる


“………!!!”



“キアラッ!? いや、コピー!!”



そこにはキアラとそっくりな顔立ちをした少女の姿!


反対側の席は髪の毛の色こそ違うがやはりキアラのコピー!


ハッ!として周りを見渡してみると、前の席も後ろの席も同じ顔の少女たち……!!


広い待合室

難民が溢れかえる雑踏のなか、キンバリーが座った待合室の一角だけ少女たちに囲まれた異様な光景


誰もその異変には気づかない


右隣のコピー少女が無言のままキンバリーの手に触れた



子供らしい暖かい小さな手


その手が離れた直後


キンバリーの身体はガクンとうなだれてしまった


まるで待ちくたびれて眠っているように


人混みのなか、眠っている中年女性には誰も注視しない



少女はひとり、またひとりと席を離れていく



ターミナルから少し離れた閑散とした広い通路にコート姿のスティーブ・グリメットの姿があった

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