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ふぁざー × こんぷれっくす

第4章 ファーストデート

このラッコを部屋に置いておく訳にはいかない。


だってきっと目にする度に清水を思い出させるに決まっている。


手に握っているラッコの顔を見ると、つぶらな瞳がジッと私を見つめ返してきた。


たかがぬいぐるみ……

されどぬいぐるみ……。


このラッコは可愛いけど、くれた清水は小憎たらしい。


「あんたに罪はないんだけどね……でも……」


ゴミ箱の口にゆっくりとラッコを運んでいく。


『キュゥ〜ン』


どこからか哀しそうな鳴き声が聞こえてきた。


「っ!?」


ラッコって鳴くっけ?


そんな疑問を頭に過ぎらせながら、ゴミ箱の口にダイブさせようとした手が止まる。


「もうぅぅぅ〜! ムカつく……」


私はラッコを胸に抱き締めて、ゴミ箱の前で座り込んで、再び号泣し始めた。


明らかに怪しい私に声を掛けてくる人は誰もいなくて……


ここぞとばかし泣き続けた――――。

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