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ふぁざー × こんぷれっくす

第5章 ファスシネイション

しかし黙ってマンションを見上げている清水は、手を離してくれる気配がないから、手を振り払おうと声を掛ける。


「ありがとう。じゃぁね」

「送ったのに、お茶も飲ませてもらえね~の?」

「はいぃ!?」


なんと清水は、送っただけじゃ飽き足らず家にまで上がりこもうとしているではないか!

まさかこいつ、これが目的だったのか!


もしかしてあの女子たちも、このために仕込んだんじゃないわよね――――。


私は目を細めて、清水を疑い深く睨んだ。


そんな私の警戒体勢を見て清水は、口元にいつもの意地悪な笑みを浮かべた。


「なに、俺がお前を襲うとでも思ってんの? まだしね~よ。もうちょっとテクニック身に着けさせないとつまんね~もん」

「なっ! テクッ……ひゃっ!」


予想を遥か斜め行く予想に、私の頭は一気に吹き飛びそうになる。


唖然として口をパクパクさせていると、清水は頭を傾けて私の顔に近付けてきた。


鼻の先がぶつかりそうなくらい至近距離で、清水の低い声が響く――――。


「それともここで、キスされたいか?」


その囁きに私は大気圏まで引き飛ばされそうになり、慌てて清水を逆に引っ張ってエントランスのドアを解除した。


「ひぃぃぃ! どうぞ、中にお入りください!」

「うむ、苦しゅうない」

「くぅ……」


勝ち誇った顔で中に入って行く清水の背中を恨めし気に睨みながら、我が家に帰るべくトボトボと後を付いて行った。


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