真田幸村九度山ライフ~恋の相手は戦国武将~
第6章 拙者はその人の記憶を呼び起すごとに、すぐ兄上といいたくなる。
「二人に、そこまでさせられないです」
「千恵は私達のために、警察を頼らないのだろう?ならば私達が千恵を守るのが道理。いや、そもそも武士は弱き民を守り平和を維持するもの。今動かなければ、武士の名が泣いてしまうぞ」
「……ありがとう」
素直に頭を下げる千恵に、昌幸は力強く頷く。守る、という言葉は、今の千恵にとってこれ以上なく頼もしい言葉だった。
「千恵、今日私がここにいたのは、ただの暇つぶしではない。千恵に一つ、相談があったのだ」
「私に?」
「実は私の嫡男である信之が、九度山に来ると手紙を寄越してな。ここへ通じる道を見つけられれば、問題が起きるだろう。向こうは掛け軸で隠しているだけだが、幸いこちらには扉がある。信之が穴を見つけても通れないよう、鍵でも掛けられないかと思ったのだ」
「それは、出来ると思いますが……」
「ならば頼む。あやつは聡い。きっと事のあらましを聞けば、幸村が未来、再び徳川へ弓引く事も悟ってしまうからな」
昌幸の一言に、千恵は心臓が跳ねる。未来を知らせるのは恐らく良くないと思い、幸村や昌幸の未来についての話は、一切二人に打ち明けていなかったのだ。