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真田幸村九度山ライフ~恋の相手は戦国武将~

第6章 拙者はその人の記憶を呼び起すごとに、すぐ兄上といいたくなる。

 
 しかし昌幸は、幸村が徳川に敵対すると断定した。それは知り得ない情報であるはずだというのに。

「……そう驚いた顔をするな。私は初めから気付いていた」

「あたし、何も話してません。なんで……」

「千恵は、信繁が偽名として名乗った「幸村」という名で、奴を戦国の武将と気付いたと話しただろう。つまりそれは、本名を名乗れない戦で、歴史に名を残したという事だ」

「でも、どうしてそれが徳川との戦だって分かるんですか。違うかもしれないですよ」

 千恵は一応あがいてみせるが、そんな付け焼き刃の言い訳は小さな溜め息に吹き飛ばされてしまった。

「名乗れない、という事は、真田の本筋である信之と対抗する勢力に与した証だ。そして信之は徳川の重臣、答えは簡単だ。さらに言えば、幸村が偽名を使い、兄を裏切ってまで忠義を果たすのは、主家と扇ぐ豊臣だ。いつ起こるかまでは分からないが、また関ヶ原のように、徳川と豊臣の戦が起こるのだろう」

 反論の余地もない正確な予測に、千恵は口をつぐむ。名前一つでそこまで悟る昌幸に、千恵が口で敵うはずがなかった。
 

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