真田幸村九度山ライフ~恋の相手は戦国武将~
第6章 拙者はその人の記憶を呼び起すごとに、すぐ兄上といいたくなる。
「……そんな人にいいようにされる、あたしもバカです。どうして、こんな事に」
「千恵が馬鹿なものか。歪んだ性癖を押し付け、無体を働く男が馬鹿なだけだ。然るべき場で、裁かれるのが妥当だろう」
そう言われて千恵の頭に過ぎるのは、警察への通報。不法侵入に強姦未遂、国親の行為は、もはややり直したい元恋人の行動ではない。しかし千恵は、首を横に振った。
「駄目です……警察に訴えたら、引っ越せって言われます」
「それは――そうだろうな」
「引っ越したら、もう昌幸さんとも、幸村とも……会えなくなります。それは嫌です」
マンションは必ずしも、理解ある人間が住み着く訳ではない。千恵が退去すれば、昌幸達もまた平成の世と別れを告げる事になるだろう。それを思うと、昌幸も言葉を変えた。
「私は狡い人間だ。千恵の安全より、自分の心を優先してしまう。確かに……私も、千恵とは別れたくないな」
身勝手を代わりに引き受ける昌幸の優しさに、千恵はまた涙を一筋流す。昌幸は手を伸ばし、それを拭った。
「外を歩く際、幸村を護衛に出そう。あれは外に興味があるから、不審な影にも敏感だろう。私も、千恵が戻るまでは寝ずにここで待つ」