真田幸村九度山ライフ~恋の相手は戦国武将~
第6章 拙者はその人の記憶を呼び起すごとに、すぐ兄上といいたくなる。
「まあ、今は豊臣の主である秀頼様がまだ幼い。乱が起こるとすれば、秀頼様が立派な青年にご成長された十数年後だろう」
駄目押しとばかりに、昌幸は分からないと言ったはずの時期まで当てにかかる。昌幸は千恵の顔を覗くと、意地悪な笑みを見せた。
「千恵は嘘が下手だな。私の予測が違うと誤魔化せば、真実がどうかは確かめようがないというのに」
「……だって」
「まあとにかく、信之もこのくらいはすぐに気付いてしまう。だから、情報は一欠片も与える訳にはいかないのだ。幸村がまた敵に回ると知れば、信之は発狂しかねない」
兄弟で敵対する。それは想像しなくとも、どれだけ辛いかよく分かる。ましてや今は、助命を嘆願してようやく勝ち取ったばかり。それを無碍にされると思えば、昌幸の言葉も大げさではないだろう。
「それと、もう一つ。私は、このままあの屋敷の中で、死ぬのだろうな」
「っ!」
千恵は、二人に悪いと思い、あまり詳しく彼らの人生については調べていない。しかし目の前に武将がいれば気になるのも確かで、大ざっぱには人生の全てを知っている。
昌幸の人生は、九度山の蟄居中に幕を閉じる。千恵はそれを、既に知っていた。