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真田幸村九度山ライフ~恋の相手は戦国武将~

第6章 拙者はその人の記憶を呼び起すごとに、すぐ兄上といいたくなる。

 
 最後の恋、という言葉の真実味が、千恵にのしかかる。が、重いそれは、苦痛ではない。親友と歩けば引き立て役と囃され、恋人を男に取られた千恵。その千恵に、ここまで真摯な瞳を向ける男は初めてだった。

「今日は戻る。信之については、進展があればまた話そう」

 昌幸は千恵の肩を軽く叩くと、立ち上がり電気を消して一人先に戻る。千恵はソファから動けず、壊れそうに高鳴る胸を押さえていた。

(どうしよう……あたし、どうすればいいの)

 告白された相手は、父親とさして変わらない年の戦国武将。しかも大きな息子のいる既婚者である。問題があまりに多すぎて、頭が全くついていかない。国親の忌まわしい感触など、もう頭から吹き飛んでいた。

 一方、昌幸はクローゼットから屋敷に戻ると、広間の真ん中で正座し待ち構える幸村に遭遇する。幸村は父の姿に顔を上げると、苦々しい顔をして訊ねた。

「父上は……嘘偽りも謀もなく、心から千恵殿を愛していらっしゃるのですか」

「藪から棒に、何なんだ信繁」

「質問に答えてください! 裏に心苦しいものがあるなら、拙者は付き合いを許す訳にはいきません。しかし気持ちが本当なら、千恵殿のためになるなら……」
 

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