真田幸村九度山ライフ~恋の相手は戦国武将~
第6章 拙者はその人の記憶を呼び起すごとに、すぐ兄上といいたくなる。
昌幸は問い詰める幸村に構わず、広間の襖を開ける。そして背を向けたまま、口を開いた。
「今のお前のような人間に相応しい言葉がある」
「はっ……?」
「余計なお世話だ、信繁」
昌幸の口振りには、苛立ちが混じっている。幸村が反論できず唇を噛むと、昌幸は溜め息を吐きながら広間を出て行った。
「――ああでもしなければ、千恵が壊れるところだった」
憂いに混じる声に、幸村は気付かない。ましてや昌幸の心の内を知る事など、不可能であった。
(本当ならば、もっと時間をかけて、確実に口説きたかったのだがな……)
次の日が日曜であったのは、千恵にとって幸か不幸か。今日の悩みばかりは、酒や食べ物でも払拭できない。仕事があっても、手につかなかっただろう。しかし仕事がないと、用のない千恵は必然的に家にいる事になる。つまりそれは、悩みの種と顔を合わせるという事でもあった。
(……昨日あんな事があったのに、よく平然としてられるなぁ)
幸村を真紀の元へ送った後、昌幸は千恵の部屋でゲームに夢中だった。ゲームに集中している分話をしなくてもいいのは楽だが、千恵は気まずくて仕方なかった。