真田幸村九度山ライフ~恋の相手は戦国武将~
第6章 拙者はその人の記憶を呼び起すごとに、すぐ兄上といいたくなる。
「……あの、昌幸さん」
だがここまで平然とされると、千恵も少し足を踏み込む気持ちが生まれる。遠慮がちな声が響くと、すぐに昌幸はコントローラーを置いて振り返った。
「今日はずっと、聞きたい事がありそうな顔をしているな」
「昌幸さん、分かっててわざとフランクにしてました?」
「さあ、なんの事かな? 私はただ、愛しい人と秘密の時間を楽しみたいだけだ」
そうは言うが、昌幸がプレイしていたゲームは一人用のRPGだ。手のひらの上で踊らされている自分に溜め息を吐くと、千恵はお言葉に甘えて訊ねた。
「そっちとこっちで、価値観が違うってのは分かってるんです。でも、奥さんがいるのに他の人へ告白していいんですか? 絶対、奥さんは傷つくのに」
それは、ずっと千恵が引っかかっていた罪悪感の元である。幸村には口が裂けても聞けないが、昌幸になら打ち明けられた。
「まあ、傷付かない……と言えば嘘になるな。浮気に激怒して夫を叩き潰す嫁など、昔からいくらでもいる。たとえそれが、政略の上で必要であってもな」
「じゃあ好きになるのなんて、駄目じゃないですか。あんな思いを誰かにさせるなんて、あたしは……」