真田幸村九度山ライフ~恋の相手は戦国武将~
第6章 拙者はその人の記憶を呼び起すごとに、すぐ兄上といいたくなる。
国親という人間に全く愛情を抱かない今でも、思い出すたび裏切りの記憶は千恵の心を刺し続ける。戦国武将だとか年の差を考える以前に、それを分かっていて先に進むなど、千恵には考えられなかった。
「とは言え、妻もまとめられないようでは、家中などまとめられまい。大名には、家を守る義務がある。婚姻による関係強化、これは無視出来ない。跡継ぎの問題もある。乱世では子が早死にする事もざらだ、候補は多い方がいい」
「でも昌幸さんは、もう幸村や、幸村のお兄さんがいるでしょう?」
「側室の子を含めれば、もっとたくさんいるぞ。信之と幸村が同士討ちで共に死んでも、真田の名は安泰だ」
「そんな言い方っ……」
「分かっている。二人も同時に亡くすなど、ない方がいいに決まっている」
だが昌幸は未来に、幸村と信之がまた道を違えると知っている。きっと最悪の想定も、既にしているに違いない。千恵が沈むと、昌幸は頭を掻いた。
「これは、戦国の世の価値観だな。女一人の器で収まるような男には嫁ぐなと、武士の娘は躾られる。側室が気に入らなくとも受け入れる、それが女の甲斐性なのだ」