真田幸村九度山ライフ~恋の相手は戦国武将~
第1章 クローゼットの向こうは戦国時代でした。
二人は揃ってゲーム好きであるが、それ以上に酒好きなのだ。こうして引き分け状態の時に酒を渡せば、ひとまず気分良く帰ってくれる。幸村は缶のプルタブを開けると、立ったままの千恵に訊ねた。
「千恵殿は、飲まないのか?」
「あたしは、これからお風呂に入るから。缶は、ちゃんと分別して片付けてね」
一杯きりの酒宴、女の長風呂より早く終わるのは目に見えている。千恵は幸村達が先に帰ると想定して話すと、風呂に向かっていった。
ゲームやテレビの電源を落とすと、途端に部屋は静かになる。幸村が一口発泡酒を含むと、昌幸が意地悪く呟いた。
「覗くなら今だぞ、信繁」
「っ、父上っ!」
不意に本名で呼ばれた事にも驚いたが、何より覗きなどという不埒な言葉に幸村は動揺してしまう。昌幸は、人を翻弄し困る姿を見るのが何よりの趣味である男。振り回されるのに慣れてはいても、心臓が跳ねるのは止められなかった。
「こちらの時代では世話になり通しだというのに、その恩人相手に覗きなど畜生以下の恥です! 戯れもいい加減にしないと、本当に怒りますぞ!」