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真田幸村九度山ライフ~恋の相手は戦国武将~

第7章 敵になっても心得は同じ事である。

 
 扉は開けられなくとも、あまりうるさくすると声は通ってしまう。千恵はひとまずリビングへと移動し、一人の休日を楽しむ事にした。

 一方、幸村は昌幸と共に、やってきた信之を出迎えていた。

「よく来たな、信之。生きている内にまた顔を合わせられるとは思わなんだ」

 後ろ暗い事があるにも関わらず、昌幸は全くそれを表に出さず笑いかける。笠を取り、一礼した大柄の男――信之は、変わらない父の姿に、会って早々溜め息を漏らした。

「あなたのような人がそのような弱音とは、冗談が過ぎますよ。殺しても死なないお方でしょう、父上は」

「いや、私とていつかは死ぬさ。会いたかったぞ、愛しい我が子よ」

「媚びても、何も出ませんからね」

 信之はそう言いながら大量の荷物を下ろし、昌幸達と共に屋敷で暮らす家臣にそれを運ばせる。何もない、とは言うが、それは貧しい暮らしをしている二人への土産であった。

「それにしても、謹慎生活で痩せこけたかと思ったのですが、二人とも太りましたか?」

 信之は二人をじろじろ見つめ、首を傾げる。二人が、内職までして生活費を工面しなければ首が回らないような人間に見えなかったのだ。
 

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