真田幸村九度山ライフ~恋の相手は戦国武将~
第7章 敵になっても心得は同じ事である。
「それは、その……」
幸村は向けられる疑惑に冷や汗を流すが、昌幸は縮こまる幸村の脇腹を小突き肩をすくめる。
「いや、まったく信繁の浪費癖には困ったものだよ。どうにも大名時代の生活が抜けなくてな、あれが食べたいこれは嫌だと我が儘で」
「そ、それは父上の方でしょう!? この前だって、皿が貧相だの茶器が欲しいだの、我が儘言って皆を困らせていたくせに」
「二人とも肥えたのですから、同罪です。あんまり我が儘を言うなら、仕送りも減らしますからね」
「そのような親不孝を言うものではない。私がお前を立派に育てたという恩を、忘れたか?」
「そのような恩は、助命嘆願で全て使い果たしました。相も変わらず口の減らないお方だ」
信之は中へ上がると、案内されるより先に歩き出す。赴いた事がなくとも、信之は屋敷の間取りは把握している。屋敷を建てる際金子を調達したのも、信之なのだ。
「あの、兄上」
幸村はそれを呼び止めるが、続く言葉はなく俯く。
「どうした、信繁?」
「兄上は……どうして」
聞こえないくらい小さな声で呟くと、幸村は顔を上げる。そして何事もなかったかのように笑顔を浮かべ、頭を掻いた。