真田幸村九度山ライフ~恋の相手は戦国武将~
第7章 敵になっても心得は同じ事である。
「そんなに拙者、太って見えますか?」
「……ああ。頬が以前より丸くなった」
信之は父に見せていた呆れ顔とも違う、暗い目を幸村に向ける。蟄居した今も、やはり変わらない陰鬱とした表情に、幸村は作り笑いを忘れてしまう。
(兄上は、なぜ拙者にだけあのような顔をするのだろうか)
だが、悩みに浸る時間はない。信之は昌幸と話しながら、廊下を歩いていく。幸村は二人の背中を追い、平成の世へ繋がる穴のある場所、広間へと向かった。
広間では必ず昌幸か幸村がそばにいるようにして、信之が無闇な詮索をしないよう牽制していた。その甲斐あってか特に信之は掛け軸の辺りを気にする事もなく、ささやかな夜の饗応を楽しんでいた。
しかし、昌幸が間に入らないと、兄弟はどこかぎこちない。幸村は杯を傾けながら、ぼんやりと兄の顔を窺っていた。
その時、幸村の耳に小さな悲鳴が聞こえた。話が頭に入らず、心が飛んでいたせいだったのかもしれない。昌幸や信之は聞こえなかったのか、二人で話を続けていた。
「千恵殿……?」
幸村は、その悲鳴に聞き覚えがあるような気がした。よほどの大きな声でない限り向こうから声が漏れてくる事はない。