真田幸村九度山ライフ~恋の相手は戦国武将~
第7章 敵になっても心得は同じ事である。
裏を返せば、よほどの事があったから悲鳴を上げたとも言える。
(そういえば小柄で妙な男がつきまとっていると、美穂殿が話していたな。不審な輩が押し寄せてきたとしたら……)
頭に浮かぶのは、悪い想像。そして追い討ちを掛けるように、どこからか何かの割れる高い音が響いたのだ。
「――千恵殿っ!」
幸村は自分の置かれている状況も忘れ、穴に飛び込んでいく。が、クローゼットの扉は鍵がかかり開かない。
「信繁!?」
信之は幸村の奇行に驚き、昌幸は溜め息を吐き頭を抱える。幸村はそんな二人に目もくれず、力押しでクローゼットの扉を外して平成の世へなだれ込んだ。
「千恵殿、無事でござるか!!」
寝室は暗く、人影はなかった。慌ててリビングへ向かえば、千恵が丸めた新聞紙で武装しているところへ出くわした。
「幸村!? なんでここに」
「ああよかった、無事でごさるな! 千恵殿に何かあったら、拙者は……」
「いや、無事って何が!? ていうかなんでここにいるのよ!」
慌てふためく千恵は、さらに動揺を増す。幸村に続き、昌幸と、見知らぬ大柄の男――信之が、顔を出したのだ。