真田幸村九度山ライフ~恋の相手は戦国武将~
第7章 敵になっても心得は同じ事である。
「油虫?」
事の真相は思いの外陳腐で、幸村は目を丸くし固まってしまった。
「そう、ここに来てからは一回も見かけてなかったから油断してたし……つい叫んじゃったの。で、退治しようと思って新聞紙振り回してたら、コップに当たって割っちゃったのよ」
千恵を騒がせた原因は、虫一匹。幸村は肩を落とし長い溜め息を吐くと、リビングに正座し事のあらましを共に聞いていた信之に目を向けた。
「そんな事で、兄上にここが知られてしまうとは……」
「あ、あたしも悪かったわよ。でも、苦手なんだもん」
二人して身を小さくすると、昌幸が咳払いし口を開く。
「まあ、悪漢の類ではなくて良かったではないか。また襲われたとなれば、洒落にもならん」
「また? この女人は、何者かに命を狙われているのですか」
「信之、そう急かすな。それも含め、今話してやろう。今まで私達が見てきたもの、全てをな」
時間は掛かるが、昌幸は信之に全て包み隠さず話していく。ここが未来の世界である事、千恵が未来の住人であり昌幸や幸村を世話してきた事、幸村が外で働いている事。突飛な話に信之は目を丸くしていたが、あまりに違う世界を目にすれば信じるより他はなかった。