真田幸村九度山ライフ~恋の相手は戦国武将~
第7章 敵になっても心得は同じ事である。
「幸村……スーツは高いから難しいけど、普段着なら今度買ってあげようか?」
「まことにござるか!?」
いつもの幸村なら、千恵に迷惑は掛けられないと断るはずだ。だが幸村はソファの上で正座すると、期待の目を向けた。
(お兄ちゃんが来て、弟スイッチ入ったかな? こんな目で見られたら、なんでもあげたくなるよ)
子どもっぽくきらめく目に、千恵は苦笑いを漏らす。
「そんな高いのは無理だけどね、少しくらいなら……」
だが千恵の言葉は、信之がドアを開けた音と咳払いで遮られる。手足がすらりと伸び、姿勢のいい信之は、スーツ姿がよく似合う。千恵は思わず言葉を失い、見惚れてしまった。
「信繁、私に酒や金の無心をするならともかく、女人に催促するとは何事ですか」
「あ、兄上……それは、その」
「幸村、信之さんにお酒とかお金を要求してたの?」
信之の説教が飛び火し、千恵も幸村に疑念をぶつける。幸村は目を逸らし耳を塞いだ。
「時に、千恵殿」
信之はため息を一つ漏らすと、スーツの端をつまむ。
「この着物は、そうとう良い品ではないか?」