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真田幸村九度山ライフ~恋の相手は戦国武将~

第7章 敵になっても心得は同じ事である。

 
「お兄さんがいるせいなのかな、なんだか今日の幸村は一段と子どもっぽくて。いつもはもっと普通なんですよ」

「いえ……信繁は本来あのような子ですよ。負けず嫌いで意地っ張りで、その上我が儘。いつも私が振り回されて、父上に怒られていました」

 信之は瞼の裏に幼い頃の思い出を浮かべたのか、笑みを浮かべる。千恵がそれを共有する事は出来ないが、その笑みから信之の気持ちははっきりと伝わってきた。

「信之さんは、幸村が本当に大切なんですね」

「それはもちろん。血を分けた兄弟ですから」

 そう言うと、信之の顔が不意に曇る。信之は自らの手を前に組むと、消え入りそうな声で呟いた。

「……あの子の無邪気な笑みを奪ったのは、私です」

「信之さんが……?」

「私が関ヶ原の戦いで、父上や信繁と袂を別ったのはご存じでしょう。それより前――太閤秀吉様が逝去される辺りから、あの子はやけに大人しくなりました」

 秀吉という、誰もが知る戦国武将の名に、千恵は彼もやはり向こうの人間だと思い出す。信之は重々しい声で、しかし千恵が話を理解しているかどうか確認しながら、話を続けていった。
 

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