真田幸村九度山ライフ~恋の相手は戦国武将~
第8章 遊園地を回りながら、こう考えた。
信之の指摘に、千恵は動揺を隠せなかった。うろたえる千恵に苦笑いすると、信之はさらに続けた。
「父上に言われませんでしたか? 私ならきっと全てを察してしまうから、こちらの世界は隠せと」
幸村、という偽名一つで明かされてしまう、閉じ込められた親子の悲劇。千恵は観念し、頷くしかなかった。
「信繁の生とは、豊臣への忠義です。豊臣が反逆を起こせば、運命を共にするのが武士でしょう。それを止める事は、信繁を殺す事と同義です」
「止める事は、出来ないと?」
「私達の時代にいる限りは、無理でしょう。信繁の未来に待つものは、肉体、または精神の死、二つに一つです」
気分はどんどん落ちていくのに、観覧車はゆっくりと登っていく。千恵は幸村の未来に胸を痛め、膝に乗せた拳を固く握った。
「ですが、平成の世で生きる『幸村』には、生きた心がありました。働き、遊び、人と触れ合い友を増やし……武士とは違いますが、あの子はこの世界の中なら、生きていたのです」
「信之さん、もしかして……」
「あなたの察する通りです。私は信繁を飼い殺しにするなら、幸村としてこの時代で生きてほしいと思っています」