真田幸村九度山ライフ~恋の相手は戦国武将~
第8章 遊園地を回りながら、こう考えた。
「あーにーうーえー! どさくさに紛れて、何をしているのですかっ!!」
幸村は二人を引き剥がし千恵の肩に両手を置くと、信之をぎらぎら睨む。後を追ってきた昌幸は、兄弟の剣呑な空気を見ると目を輝かせ傍観者の姿勢を取った。
「よいですかっ、この世界では一夫一妻、側室は許されないのです! 千恵殿の幸せはこの平成に合わせて考えるべき、兄上が一時の性欲で汚してよいものではありません!」
幸村の剣幕に、信之は目をぱちくりとさせる。そして、腹を抱え、堪えきれず笑いを零した。
「ふっ……ふふ、ははは、あははは」
「あ、兄上……?」
「ふふっ、いつもは私が振り回されてばかりなのに……人がうろたえる姿を見るのは、悪くないものですね」
信之が笑い続けていると、幸村は千恵から手を離し、俯く。千恵が幸村の様子の変化に気付いて慌てると、信之も笑っている場合ではなくなった。
「の、信繁……? そんなに悔しかったのか?」
幸村は肩を震わせ、声を出さずに泣いていた。千恵がハンカチを差し出せば幸村は涙を拭うが、涙が止まる気配はなかった。