真田幸村九度山ライフ~恋の相手は戦国武将~
第8章 遊園地を回りながら、こう考えた。
大の大人が泣いている姿はさすがに異質で、人目を引く。傍観しているだけでは収まらないと、動いたのは昌幸だった。
「まったく、武士が簡単に涙を見せるとは情けない。ほら信繁、歩け」
幸村の背を押し、昌幸は人気の少なそうな端の方へ連れて行く。幸村は泣きじゃくりながら、置いてあるベンチに座った。
「だって、兄上が……兄上が笑ったのです。拙者の前で笑ってくださるなど、もう二度とないと思っていたのに」
幸村の前にしゃがみこみ、心配そうに見つめていた信之は、その一言に唇を噛み締める。
「秀吉様が危篤になられた頃から、兄上は次第に拙者の前で笑う事がなくなりました。そして、関ヶ原での対立……兄上は拙者や父上を捨てて徳川に忠を捧げたから、憎き豊臣の臣である拙者には、もう笑いかけてくださらぬのだと、思っていました」
「馬鹿な事を言うな! 憎い相手なら、なぜ命を賭けてまで助命するんだ!」
「それは、真田としての義理でござろう! 父や弟を見殺しにしたとあらば不義であるから、仕方なく……」
だが幸村は首を横に振り、信之の表情を窺う。