真田幸村九度山ライフ~恋の相手は戦国武将~
第9章 嵐が来る。
弁護士の連絡先を検索している千恵を見つめていた国親は、差し出された画面を通り越し、千恵の腕を取る。そして周りに気付かれないよう、触れるだけの短いキスをした。
「……どうして俺は、千恵を手放したんだろうな」
切なげに見つめる瞳に耐えきれず、千恵は立ち上がる。が、頭に過ぎるのは、途中で帰らないでほしいと頼まれた記憶。
「ち、ちょっとお手洗い、行ってくる」
ぎくしゃくしながら千恵はその場からひとまず離れ、トイレに駆け込む。鏡を見れば、千恵の顔は真っ赤になっていた。
(な、なんだったの、今の)
金目当てだと判明した今、国親が千恵に手出しする理由はない。だがそのキスは、明らかに故意だった。まるで、本当に未練があるかのように。
(早く終わらせて、帰ろう。またややこしくなったら悪いし)
千恵は深呼吸し、平静を装って席へ戻る。料理は席を外している内に運ばれていたようで、テーブルには白い湯気の立つ料理が並んでいた。
会話もそこそこに、食事を済ませると千恵は足早に店を出る。が、国親はそんな千恵を引き止めた。
「もう夜だし、送るよ。女一人じゃ心配だ」