真田幸村九度山ライフ~恋の相手は戦国武将~
第9章 嵐が来る。
「え? いや、いいよ。夜って言っても、まだ九時にもなってないし」
「千恵はそうやって油断して危なっかしいから、駄目だ。俺いつも言ってただろ、夜は一人で歩くなって」
いつも、と言われて思い返してみるが、千恵に心当たりはない。思い出そうとしても、国親との思い出は大分薄れていたのだ。
「いや、本当に大丈夫――っ、うわぁ!」
千恵は苦笑いで誤魔化し帰ろうとするが、足がもつれ転んでしまう。と、同時に膝に走る痛み。ストッキングに滲む血は、国親に送る理由を付けてしまった。
「そんなフラフラしてるんじゃ、危なくて見てられない。ほら、足出して」
国親はポケットからハンカチを出すと、擦りむいた膝に巻き付ける。そして千恵の肩に手を回すと、千恵を支えるように歩き出した。
「ご、ごめんなさい……」
「全く、なんで何もないところで転んでんの。本当に、危なっかしい」
「本当、何でだろ……」
自分ではしっかり歩いているはずなのに、千恵の足取りは拙い。酒も飲んでいないのに、まるで酔っ払いのように朦朧としていた。
(今日の料理、隠し味にアルコールでも入ってたのかな? でも、そのくらいで酔うとは、思えない……)