真田幸村九度山ライフ~恋の相手は戦国武将~
第2章 千恵は激怒した。
思わぬ餌を前に、幸村の混乱は極まる。冷静になろうと心掛けようとして、とにかく当初の目的を果たす事だけを考えてしまったのだ。その前に離れるだとか戻るという判断が出来ないあたり、全く冷静ではないのだが、本人だけは冷静なつもりであった。
「千恵殿、お話が――」
「何してるんだ、幸村?」
しかし幸村は首根を掴まれ、千恵から引き剥がされてしまう。混乱する場に現れたのは、幸村の父・昌幸だった。
昌幸は幸村を正座させ、千恵に幸村の羽織を渡す。そして千恵も正座させると、二人にこんこんと説教を始めた。
「全く、幸村。お前はこちらで世話になり通しの千恵に対して、なんたる無体を働いているんだ」
「違います! 拙者は話がしたくて」
「女人を組み敷いて話す内容など、ろくな事ではあるまい! 反省しなさい」
「……申し訳ない」
幸村が肩を縮めうなだれると、昌幸は千恵にも追及を始めた。
「千恵も、いくら自分の部屋といえ、他人の男が出入りする場で、そのような格好でうろついてはいかん」
「すいません……でも朝だし、大丈夫だろうと思って」