真田幸村九度山ライフ~恋の相手は戦国武将~
第2章 千恵は激怒した。
「これが幸村でなく、泥棒だったらどうする? おなごという生き物は、か弱く儚い。されば、身を大切にせねば」
「仰る通りです……」
昌幸の説教で二人は冷静を取り戻し、混乱しきった場は収まる。しかし結局時間はなくなり、千恵は遅刻の影と戦いながら家を出て行く事となる。幸村の話は、聞く事が出来なかった。
そもそも千恵の頭の中に、幸村が何か話をしたがっていた事など残っていなかった。会社でもつい思い出してしまう、今朝の出来事。唇どころか体全てを奪われても仕方ないくらいに近付いた距離は、千恵の心臓をおかしくさせた。
パソコンに向き合い打ち込みをしながら考えるのは、愚直と言えるほど真面目で誠実な幸村の姿。幸村本人は全く気が付いていないが、千恵は幸村に惹かれていた。
(……馬鹿だな、あたし。結婚どころか、生きる時代すら違うのに。女に見えないとか言われてるのに、上手くいくはずないのに)
胸の高鳴りは次第に憂鬱へと変わり、同時に打ち込む指も鈍くなっている。一人思い悩んでいると、背中にばちんと衝撃が走った。
「こら、千恵! 考え事は自由だけど、手は動かす!」