真田幸村九度山ライフ~恋の相手は戦国武将~
第9章 嵐が来る。
「千恵殿ーっ!!」
ドアが乱暴に開かれる音と共に、この場にいるはずのない声が響く。その声の持ち主は淫靡な空気を吹き飛ばし乱入すると、千恵に覆い被さる国親の頭を片手で鷲掴みにして、床に叩き落とした。
「この、姦賊め! 一族郎党、皆撫で斬りにしてくれるっ!!」
国親に容赦なく拳を振るうのは、間違いなく幸村であった。だがその形相は見た事もない怒りで染まり、その拳もあっという間に血で染まった。
「ま……待って! それ以上殴ったら、国親が死んじゃう!!」
「殺せばいいのです、こんな人間っ!!」
幸村は千恵の制止も聞かず、なお拳を振り上げる。が、入り口の方から飛んできた下駄が幸村の頭に直撃した事で、ようやく止まった。
「この馬鹿者、この平成の世で刃傷沙汰を起こせば、迷惑が掛かるのは千恵だぞ。気持ちは分かるが、殺さぬ程度に留めておけ」
そう言いながらやってきたのは、やはりここにいるはずがない昌幸。昌幸は素早く千恵を拘束する縄を解くと、自分の着ていた着物を一枚羽織わせて体を隠した。
「昌幸さん……幸村も、どうしてここに」