真田幸村九度山ライフ~恋の相手は戦国武将~
第2章 千恵は激怒した。
背中を叩き激励したのは、会社の同期であり親友でもある葛西美穂。明るく裏表のない性格をしながら、女らしい柔らかな外見も保つ、会社の中でも評判の美人であった。二人でいると時に千恵は「美穂の引き立て役」扱いされる事もあるが、そんな陰口より美穂の方が大事だった。美穂もまた、そんな千恵の気持ちは充分に承知している。故に二人は、一番の親友であったのだ。
「もう三ヶ月も立つんだから、いい加減本村さんの事は忘れなさい。あんなサイテー男、千恵には釣り合わないんだから」
美穂は千恵が落ち込む理由を、別れた彼氏が原因だと思って声を掛けていた。それもそのはず、別れたその人――本村国親は、千恵と結婚の約束までしていたのだ。
「ううん、それはもう大丈夫。大丈夫だから」
確かに国親との別れ話では、美穂に相当愚痴を聞いてもらい迷惑を掛けた。しかし今は、もう国親の事などすっかり頭から消えていたのだ。名前を聞いて、そんな人もいたな、と思い出したくらいに。
「と、いう事は……新しい恋?」
千恵の否定にごまかしがないのを感じた美穂は、鋭い女の勘を働かせる。完全に手の止まった千恵を見て、美穂は確信した。