真田幸村九度山ライフ~恋の相手は戦国武将~
第9章 嵐が来る。
「気持ちがないって……俺達結婚しようって話してただろ! 髪だって、俺に振られたから切ったんだろ!?」
「そんなのもう何ヶ月も前の話じゃない! 確かにあたしは国親が好きだったよ、けどいつまでも引きずってた訳じゃない」
千恵の頭に浮かぶのは、引っ越してきてからの思い出。幸村と出会い、昌幸に翻弄され、信之の優しさに触れ、千恵はいつも心を動かしていた。
「楽しい事も、嬉しい事も、全部幸村と一緒だった。国親の事を思い出す暇なんてなかった。いつだって、あたしの頭は幸村でいっぱいだった」
「でも、千恵は俺を信じてくれただろ!」
「人として信用するのと、好きになるのは別なの! とにかく、今さら何を言われたってもう無理!」
千恵の強い拒否に、国親は眼光を鋭くする。が、昌幸が千恵を庇うように片手を広げ、小馬鹿にするかのように笑った。
「女がこう言い出したら、どんな理屈を並べても変えられないな。お前は決して手放してはならないものを手放したんだ、諦めろ」
「千恵……」
弱々しい国親の声に、千恵が憂う様子はない。国親がうなだれると、恭介がその前に立った。