真田幸村九度山ライフ~恋の相手は戦国武将~
第9章 嵐が来る。
恭介の喜ぶ顔は子犬のようで、千恵も思わず頬を緩ませてしまう。刻まれた深い傷跡よりも大きな絆に、千恵の笑みは守られていた。
「それでは千恵さん、僕、家まで送ります。千恵さんの荷物は……あちらに置いてあるみたいですが、何か抜かれているものはないか、確かめてくださいね」
恭介が視線を向けた部屋の隅には、千恵の服と荷物が粗雑に置かれていた。だが千恵はまずベッドに置かれたカメラを手に取ると、恐る恐るデータを確認した。
「……あれ?」
国親は、千恵の写真を撮ったと脅してきた。だが、そこに保存されている写真はなかったのだ。
(もしかして、撮った振りをして、脅したのかな)
写真は確かに脅迫の強い道具だが、もし千恵が警察に駆け込めば、揺るぎない証拠にもなる。千恵は長い溜め息を吐くと、カメラを処分すると申し出た恭介に手渡した。
幸い荷物も無事で、現金を抜き取られた後はなかった。だが国親に脱がされた、と思うと、どうしてももう一度袖を通す気にはなれず、ひとまずそのまま着物を借りておく。
「念の為、カード類は暗証番号を変更してくださいね。それと……」