真田幸村九度山ライフ~恋の相手は戦国武将~
第9章 嵐が来る。
一方、一人屋敷へ戻った幸村――信繁を寝所で出迎えたのは、信繁の正室である竹林院であった。
「お帰りなさいませ、信繁様」
「あ、ああ、お竹か。こんな遅くまで待っていなくともよかったのに」
幽閉生活となってから、竹林院は暗い表情をする事が増えていた。が、信之が訪れて以来、彼女はやけに明るくなったのだ。今日も放ってしまったにも関わらず、竹林院は夜を照らすような笑みを浮かべていた。
甲斐甲斐しい妻を目の前にすると、信繁に生まれるのはこの世界、そして一人の女への執着。自分は何者なのか思い出しながら、信繁は竹林院の隣へ座った。
「まだ、お悩みになられているのですね」
竹林院は信繁の手を取ると、細く白い指を絡めながら苦笑いする。
「お竹……俺は、一体何者だと思う? 武士としての自我は徳川の檻に閉じ込められ、かといって泰平の世に染まる訳でもない。どこの世界にいても、俺は狭間の者だ」
「そんな事でお悩みに?」
「そんな事とはなんだ、俺は真剣に――」
「どこにいようと、何をしようと、どんな道を歩もうと、信繁様という人間の本質は変わりません」