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真田幸村九度山ライフ~恋の相手は戦国武将~

第2章 千恵は激怒した。

 
「千恵ー、今日仕事終わったら、飲みに行こ? たっぷり話聞きたいからさ」

「う……うん」

 話と言っても、さすがに恋の相手が戦国武将だとは打ち明けられない。とはいえ親友をむげにも出来ず、千恵は頷くしかなかった。

 しかしその約束は、仕事が終わり、美穂と共に会社を出た後反古になってしまう。入り口の前で待ち伏せていた男――三ヶ月前に別れた、国親の登場によって。

「千恵」

 スーツ姿で待っていたのは、国親が自分の会社からこちらへ真っ直ぐ向かってきた証。彼と付き合っていた頃は、こうして待っている国親とよく帰路を共にしていたのだ。長らく待たせても苦と思わず、大きな背中を微かに丸めながら待つ姿は、どんな美形でも敵わないくらい、千恵には輝いて見えていた。

 しかし今、国親が待つ理由はないはずである。千恵はうろたえるが、それ以上に美穂が嫌悪感を示し口元を歪めた。

「千恵、行くよ」

「待ってくれ、千恵!」

 美穂は千恵の右腕に抱きつき、国親は左腕を掴む。大柄な国親が引けば、二人とはいえ女では敵わず、美穂は国親を怒鳴りつけた。

「いい加減にしてよ、警察呼ぶわよ!」
 

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