真田幸村九度山ライフ~恋の相手は戦国武将~
第10章 「両腕を一生お貸ししてもいいわ。」と娘は言った。
昌幸は千恵の邪魔をしないように、余計な口を挟まず相槌を打つ。その気遣いは千恵にとって嬉しいのだが、また心苦しくもあった。
「でも、私が好きになったのは幸村なんです。どこか抜けてるところもあるけど、私の幸せを一番に考えてくれて……それは私にだけじゃなくて皆にそうなのかもしれないけど、そういうところが好きです。だから、ごめんなさい。昌幸さんの気持ちには答えられません」
千恵は申し訳なくて、ひたすら頭を下げる。しかし返ってきた昌幸の声は、これまでと変わらずに、千恵を見守る温かな声だった。
「真剣に考えた答えならば、仕方あるまい。頭を上げてくれ。謝る必要はない」
千恵が顔を恐る恐る上げれば、その声と同じく慈愛に満ちた顔が目に映る。
「千恵の幸せを一番に考えているのは幸村かもしれないが、千恵の考えを一番に理解しているのは私だ。いつでも千恵を見ているからよく分かっているさ、千恵が幸村を好きで仕方ない事はな」
「でも、決して昌幸さんが悪いとか、そういう訳じゃないんです。あたしが、ただ幸村を好きなだけで……」