真田幸村九度山ライフ~恋の相手は戦国武将~
第10章 「両腕を一生お貸ししてもいいわ。」と娘は言った。
「そんな千恵に、ひとつだけ教えてやろう」
昌幸は人差し指を立てると、悪戯めいた笑みを浮かべた。
「幸村は、案外私に似てしたたかな子だ。誰にでも平等に、愛情を振りまくような性格ではない。千恵に全く気がなければ、あれはもっとぞんざいな振る舞いをしているだろうな」
「そうでしょうか……?」
「男などという生き物は馬鹿だからな、好みの女の前ではいつでも良い格好をしたいものなのだ。だが共に長い時を過ごせば、気が緩み雑な一面も見えてくる。千恵はまだ見えていない幸村の姿を知っても、変わらずに愛せるのか?」
思わぬ問い掛けに、千恵は驚き目を丸くする。だが迷いなく、しっかりと頷いた。
「はい。駄目なところだって含めて、好きになれると思います」
「そこまで言うのであれば、幸村は千恵にくれてやろう。あの子を、幸せにしてやってくれ」
向き合う昌幸の表情は、もう男ではなく父親のものである。男女の仲にはなれなくとも、千恵は人として昌幸に敬意を感じていた。
「しかし、幸村が及び腰であるなら、私が諦める意味もない。千恵、一つ乗ってみないか? あの鈍い馬鹿息子に、一つ鞭を打ってやろう」