真田幸村九度山ライフ~恋の相手は戦国武将~
第10章 「両腕を一生お貸ししてもいいわ。」と娘は言った。
周りに誰もいないのにも関わらず、昌幸は小声で千恵に「作戦」を伝授する。だが千恵はそれを聞くと、苦笑いを浮かべた。
「――それ、昌幸さんが幸村に怒られません?」
「幸村に小言を言われたところで、痛くも痒くもないわ。後は、千恵の資金力と、真紀のなだめすかしが必要なだけだ。そればかりは、私の手は及ばないからな」
「でも、昌幸さんに悪いんじゃ……」
「言っただろう? 男は好みの女を前にすると、良い格好をしたがると。私にも、最後まで良い男の振りをさせてくれ」
そう言われてしまうと、千恵も断りにくい。しばらく悩んだが、最後には頷くしかなかった。
「じゃあ、次の日曜日に決行します。真紀さんには、あらかじめ根回ししておきますね」
「うむ、頼んだぞ。作戦提案の礼は、旨い酒でいいぞ。私は幸村が驚き怒る姿を肴に呑みたいのだ」
そして昌幸は、心の底から楽しそうな顔をして、足取り軽く戦国へと帰っていった。今回の作戦が、幸村への意趣返しも含んでいるのは明らかである。だがそれもまた仲のいい親子の戯れ、千恵は自分のせいで親子にヒビが入らないか心配だったが、憂いは無用のようだった。