真田幸村九度山ライフ~恋の相手は戦国武将~
第10章 「両腕を一生お貸ししてもいいわ。」と娘は言った。
「このまま帰ってもなんだかもったいないし、幸村がいいなら行こ?」
「では、お言葉に甘えて。まずは、あまり早くない乗り物から体を慣らしていきましょう」
幸村は頷くと、さっそく千恵の隣を歩いていく。嫌がられてはいない、それに一安心した千恵は、思い切って、無防備に揺れる幸村の手を握ってみた。
「ち、千恵殿?」
すると幸村は肩を震わせ、立ち止まってしまう。
「ごめん、はぐれたら困るなと思って……子どもじゃないんだから、変だよね」
幸村は自分から抱きついたりと感情表現が豊かだが、だからといって人に触られるのが好きとは限らない。だが千恵が慌てて手を離せば、幸村は強く千恵の手を握りなおした。
「い、いや、千恵殿から手を差し出すのは珍しいゆえ、驚いただけにござる。はぐれてしまえば大変ですし、このままで」
遊園地は賑やかであるが、先日の混み合いに比べれば余裕がある。しかし幸村はしっかりと手を握り、千恵をエスコートするかのように歩き始めた。
一度来た場所はすぐ慣れるのが幸村の性質のようで、今日は一日中幸村が千恵を引っ張っていた。