真田幸村九度山ライフ~恋の相手は戦国武将~
第10章 「両腕を一生お貸ししてもいいわ。」と娘は言った。
楽しい時間は、あっという間に過ぎていく。気が付けば辺りは暗くなり、腹の虫が主張を始める時間帯になっていた。
「千恵殿、そろそろ時間でござるな。最後に乗るならば、あれがいいと思います」
幸村が指差したのは、観覧車。人の気配が耐えない遊園地の中で、唯一と言ってもいいくらいに二人きりになれる乗り物だった。
「――うん。そうしよう」
想いを伝えるならば、これとない機会。千恵は頷くと、破裂しそうな心臓を抑えながら順番を待った。
しかし、いざ、と思うと緊張が止まらず、千恵は思わず順番が回ってこない事を祈ってしまう。だが観覧車は千恵が思うよりずっと早く回り、挫けるなと言わんばかりにやってくる。
ゴンドラの中に乗り込めば、喧騒が消える。幸村は千恵の手を離さず、隣に座ると景色に目を移した。
「戦国の夜は野犬や盗賊のために油断が出来ませんが、こちらは明るく安心で羨ましいです」
「ゆ、幸村……狭くない?向かいに座った方が、ゆっくり外を見られるんじゃないかな」
手を繋ぎながら告白は、千恵にとってあまりにも難易度が高い。平静を装って促してみるが、幸村は小首を傾げ下から千恵を覗いた。