真田幸村九度山ライフ~恋の相手は戦国武将~
第10章 「両腕を一生お貸ししてもいいわ。」と娘は言った。
幸村の表情を窺えば、酷く悲しそうな顔をして千恵の話を聞いていた。うかない表情に、千恵は心が折れそうになる。が、口を開いた幸村は、千恵の想像とはかけ離れた答えを導き出していた。
「千恵殿は、そんなにも父上を愛していらっしゃったのですか」
「……え? ちょっと待って幸村、何で今昌幸さんの名前を出すの?」
千恵はうろたえ聞き返すが、幸村は耳に入らなかったようで、一人まくし立てる。千恵が口を挟む隙は、全くなかった。
「ち、父上もあれで意外に惚れた相手は大事にする人間です。そうそう、父上の側室の一人に拙者の幼なじみがいたのですが、親子程年が離れているくせにとても仲睦まじく、そんな父上ならきっと千恵殿も幸せにするでしょう。千恵殿がどうしても好きだと言うのであれば、拙者は……」
だが幸村の言葉は、不意に止まる。千恵は誤解を解こうとすかさず話そうとするが、それは幸村に抱き締められた事で止まってしまった。
「……拙者は、応援など出来ません」
「幸村……?」
「申し訳ありません、千恵殿。千恵殿がいくら幸せでも、こればかりは認めたくありません」