真田幸村九度山ライフ~恋の相手は戦国武将~
第10章 「両腕を一生お貸ししてもいいわ。」と娘は言った。
「それは、あたしがお父さんの恋人だと気まずいから? それとも」
「誰が相手でも嫌なのです。もし拙者がこの世界に生きる者なら……千恵殿を心から幸せに出来る力があるならば、すぐにさらってしまいたいのです」
だが幸村は甘い言葉に反し、沈んだ声で続ける。
「ですが、拙者は千恵殿にとっては荷物にしかなりません。そして、生まれ馴染んだ戦国の世を、どうしても捨て切る事も出来ないのです。拙者は欲しいと願うばかりで、千恵殿に何かを与える人間にはなれないのです。そんな拙者が千恵殿を求めるなど、許されるはずがありません」
「幸村……」
「なれば千恵殿の幸せを一番に願うべきだと、そう自分に言い聞かせてきました。しかし、拙者はどうやら、それすら出来ないようです」
幸村は千恵から身を離すと、千恵の向かい側に座り直し、逃げるように視線をそらした。
「……幸村の気持ちは、よく分かった。じゃあ、まず一つだけ言わせて」
「分かっています、今日を最後に、拙者はもうこちらには来ません。ですから安心して――」
「あたしが好きなのは、幸村なの」